空恐ろしい「偶然」

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 久しぶりに訪れてみた懐かしい建物に絡む二つの数字が
たまさか妹と私二人の生年と一致する程度の偶然ならば,
「こんな事もあるんだな・・・」と,どこか温かい気分にもなれる。
 
 けれど,そういった牧歌的な感情には程遠い思いを呼び覚ますような
「偶然」もある。

 
 妹は,私があの日までその地名を意識したことが無い小さな町の外れで
ナイフを胸に突き立てるという激しい形で生を閉じた。
 最期の地となったその町名には格別難しい漢字も使われておらず
日本人の「姓」として存在していても,何ら不思議はない字面だ。
 分かりやすく例を挙げるなら,
「長崎」とか,「三河」とか,地名がそのまま姓としても違和感が無い類の。

 昨年の夏。
 仕事中,机上に出していたある書類を何気なく見ていて
思わず動作を止め,そこに記入されたある人物の氏名を見つめた。

 仕事上で私と関わりが有るこの人物の「姓」は,
妹が命を絶ったあの町の名,そのものだった。当然漢字も同じ。
 でも,それだけならば,さほど衝撃は受けなかったと思う。
 ありふれているとは言えないまでも,特に希少な姓という訳でもない。

 凍り付いてしまったのは,「名」の方の文字との相乗作用のせい。
 
 Eは,ナイフで身を傷付けた。
 昨年あの1月の夜,警察で一連の説明を受けた後に
袋に入れられた妹の着衣を渡された際,
「それなりに血が付いていますので。」という念押しの一言があった。
 私の目が釘付けされたその人物の「名」の漢字は,まさに
「衣服が赤く染まる」という意味を持つ二文字の並びだった。

 実名を出せない以上これも別の例で表してみるなら,もしも
 「金沢で,何かの作用で<着衣が青く染まる>形での最期」
を迎えた人物の肉親が,どこかで「金沢 青衣」という姓名を見たなら,
間違いなくショックを受けるだろう,という事。
 
 こんな事が有るのか?と,信じられない思いだった。
 
 この人物と私が最初に関わりを持ったのは,今から6年も前の事。
 勿論,妹とは接点など無い。
 あらゆる意味で,完全に無関係だ。
 生粋の「偶然」だと分かるだけに,衝撃は強かった。

 
 「偶然」って,一体何なのだろう??

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